| 3.主な果物の生理機能 |
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n.イチゴ
イチゴは、ビタミンCや有機酸(主にクエン酸、リンゴ酸)を豊富に含む果物です。水溶性の抗酸化成分であるビタミンCは、脂溶性抗酸化成分であるビタミンEの存在下で相乗的な抗酸化効果を発揮することが知られています 。また、植物性食品の重要な抗酸化成分であるポリフェノール類として、エラグ酸 のほか、フラボノイドに属するアントシアニン類、ケルセチン、ケンフェロール、カテキンを含んでいます 。エラグ酸はポリフェノール類の中でも特に強い抗酸化力を持つ化合物です。果実の赤色はアントシアニン色素によるものです。アントシアニン類やケルセチンは植物性食品に広く存在しており、in vitroおよびin vivoの抗酸化作用や活性に関する多数の報告があります。イチゴのアントシアニンのヒトにおける生体利用性を調べた研究では、吸収後の主要なアントシアニン代謝物はグルクロン酸や硫酸の抱合体であることが見いだされています 。天然アントシアニンの給源としてのベリー類は、心疾患系障害、老化誘導酸化ストレス、炎症反応、多様変性疾患などの広範囲の生物医学的機能を示し、ゲノムDNAの保護や神経及び認知機能や視覚機能の改善に働くことが知られています 。
イチゴをはじめとするベリー類はこれらのポリフェノール類の宝庫であり、そのため高い抗酸化活性を示すものが多くあります。中でもイチゴは上位にランクされています 。イチゴの抗酸化活性の品種間差を調べた研究もあり、ポリフェノール含量と活性の間に相関が認められました 。イチゴの各種抗酸化成分の含量は、品種、熟度、および貯蔵によって変動することが報告されています 。Hannamはイチゴに含まれるポリフェノール類の含量、抗酸化活性および生体利用性や、循環器系疾患やがんなどの疾病に対するイチゴの予防効果をまとめています 。
ビタミンCやポリフェノール類のような抗酸化成分は、活性酸素を捕捉・消去することができるため、活性酸素による酸化ストレスが引き起こす様々な生活習慣病(循環器系疾患、がん、糖尿病など)の予防に役立つものとされています。イチゴのアセトン抽出物はヒトの低密度リポタンパク(LDL)コレステロールの酸化を濃度依存的に抑える ことから、イチゴの動脈硬化予防効果が期待されています。また、イチゴに含まれるフラボノイドは血小板凝集を阻害する作用があることが見いだされており 、これは脳卒中のリスクを低減させる効果を示唆するものです。
イチゴの発がん予防効果に関する研究は多く、発がん物質で誘導した食道の腫瘍形成を阻害する作用 、肺および子宮頚がん細胞に対する抗がん活性 、肝臓がん細胞の増殖を阻害する作用 が報告されています。また、フェノール化合物としてアントシアニンとエラグタンニンを含むイチゴ抽出物は大腸がん細胞の増殖を阻害することが認められ、その作用機構が示されました 。エラグ酸やイチゴのメタノール抽出画分はハムスター胎芽細胞の形質転換を減少させること や、イチゴなどのベリー類の抽出物はヒトのケラチン(皮膚の構造タンパク質)細胞による血管内皮細胞増殖因子の発現を阻害したり血管形成を抑えることが見いだされました 。これらの報告もイチゴの発がん予防効果を示唆するものです。
イチゴなどのベリー類は、直接作用する変異原物質であるメチルメタンスルホン酸や代謝活性化発がん物質であるベンゾピレンによる遺伝子の突然変異を有意に阻害し、それらのエタノール抽出物の中ではイチゴの加水分解性タンニンの画分が高い変異阻害効果を示すことが報告されました 。イチゴ抽出物はヒトの肺上皮がん細胞の増殖を抑えるとともに、紫外線やTPAで誘導されるAP-1(転写因子複合体)及びNF-κB(サイトカイン)のトランス活性化を阻害しました 。著者らはそれらの効果がイチゴの抗酸化性や酸化ストレス低減能によるものであることを示唆し、イチゴは発がん予防に効果的な食品であるとしています。イチゴはヒト肝がん細胞のアポトーシスを誘導し、細胞の生存度を減らすという報告 や、大腸がん細胞や肺がん細胞の増殖を濃度依存的に抑えるという報告 もあります。Olssonらは、それらのがん細胞増殖阻害効果が慣行栽培イチゴよりも有機栽培イチゴで高いことや、肺がん細胞増殖阻害については有機栽培イチゴで高いアスコルビン酸/デヒドロアスコルビン酸の含量比と相関があることを見いだしています 。イチゴ抽出物は放射線照射による発がんや神経系の損傷(学習及び記憶能力の低下を起こす)を抑えるという報告 もあります。イチゴなど3種類のベリー類のげっ歯類における食道がん予防効果を調べた研究では、発がん物質処理ラットの腫瘍形成を阻害し、その効果は処理後の摂取でも認められました 。また、その阻害メカニズムは発がん物質の代謝に影響を与えてDNAの損傷を減少させることであると示唆されました。イチゴ抽出物はベリー類の中で大腸がん細胞に対して最も顕著なプロアポトーシス効果を示すことが報告されています 。発がんに関わるNFkappaBのTNF-誘導活性化を抑制する作用についても報告があります 。
イチゴの発がん予防機能に関してはヒト介入試験や疫学的研究も行われています。Helserらはイチゴ果汁を添加した食事がヒトでのニトロソアミノ酸(発がん物質)の生成を有意に抑えることを報告しました 。また、Chungらは、ヒトによるイチゴの摂取は発がん物質、N-ニトロソジメチルアミンの体内での生成を軽減することを示しました 。イチゴに含まれる主要な抗酸化・抗がん成分であるエラグタンニン(エラグ酸から成るポリフェノール)の代謝がヒト介入試験で調べられました 。その結果、イチゴ摂取後のヒトの尿中にはエラグタンニンもエラグ酸も検出されなかったが、代謝物であるurolithin B(抗血管新生及びヒアルロニダーゼ阻害物質)のグルクロン酸抱合体が検出され、urolithin Bがエラグタンニンを含む食品摂取のバイオマーカーになることが示唆されました。野菜や果物の摂取と結腸直腸の発がんとの関係を調べた疫学調査によると、女性では果物のうちカキ、イチゴの高摂取が腺種発生のリスクを低下させるという結果が得られています 。
ベリー類には抗酸化作用や抗がん作用を持つアントシアニンが豊富に含まれるため、何種かのベリー抽出物を組み合わせることにより、アントシアニンリッチで高い抗酸化活性、血管新生抑制活性、および抗がん活性を持つ食品が開発されました 。それらのベリー抽出物のin vivo実験において、安全性が確認されるとともに生体内でも抗酸化性を持つという結果が得られています 。
酸化ストレスに弱いほど老化が促進され、中枢神経系機能の衰えやアルツハイマー病や欠陥性痴呆のような老化に関係した神経系疾患を起こしやすいことが示されたことから、Josephらのグループは、抗酸化活性の高い野菜や果物の摂取の影響を調べました。ラットによるイチゴやホウレンソウ抽出物の長期間摂取は、老化に関係した神経細胞シグナル伝達や認知・運動行動の欠陥の発症を抑えたり、回復させることが報告されました , 。さらに、それらの抽出物に含まれるポリフェノール類が酸化ストレスによる神経系疾患の予防効果を持つことが示唆されました 。放射線照射による老化促進モデルラットを用いた迷路実験においても、神経細胞の機能や挙動に対するイチゴ摂取の効果が認められています 。
抗炎症作用に関する研究では、イチゴの抽出物が炎症プロセスを調節する酵素であるシクロオキシダーゼ(COX)を阻害することが明らかにされています 。イチゴの抗血栓作用については、最近、品種との関係で系統的に調べた結果が報告されました 。それによると、いくつかのイチゴ品種はin vitroで高い抗血小板活性を示し、また動物実験で高い抗血栓作用を示しました。抗血小板活性は抗酸化活性あるいは総ポリフェノール含量と相関していたことから、イチゴの抗血栓作用は血小板機能の直接的な阻害と抗酸化作用の2つのメカニズムによるものと推定しています。
イチゴの抗菌作用に関する報告もあります。グラム陽性、グラム陰性いずれのヒト病原菌もイチゴなどのベリー類やそれらのポリフェノール類によって選択的に生育が阻害され、中でもStaphylococcusおよびSalmonella属の細菌は最も感受性が高いことや、ベリー類のポリフェノール化合物、特にエラグタンニンがStaphylococcus aureusを強く阻害することが見いだされました 。また、そのような抗菌活性はベリー類の抗接着活性によるものとされています 。イチゴなどのベリー類は胃潰瘍や胃がんの原因になるとされるHelicobacter pylori(ピロリ菌)の生育を有意に抑えるとともに、抗生物質に対するピロリ菌の感受性を高めることも報告されています 。最新の文献 で、チモール、メントール、オイゲノールなどの植物エセンシャルでイチゴを処理すると、通常のイチゴに比べて微生物の生育が抑えられ、シェルフライフが延びることが報告されました。この処理はまた、DPPHラジカル及びヒドロキシラジカルに対する捕捉活性や大腸ガン細胞の増殖を強く阻害する活性を示すことが見出されました。
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