f. 認知症
老化にともなう脳の自然な衰え、例えばものを置いた場所を忘れる、細かいことを思い出せないといったことは誰にでもあります。これとは異なり、日常の生活が正常に行えない病的な記憶の障害がおこる場合があります。これを認知症(痴呆症)といいます。高齢化が進むにつれて大きな問題になってきています。認知症の病因はいくつかありますが、脳血管性の認知症とアルツハイマー病による認知症がほとんどで、近年はアルツハイマー病が増えてきています。アルツハイマー病は進行性で、45〜65歳ごろ発症し、徐々に症状が進行して6〜10年後に死亡します。アルツハイマー病は、大脳が萎縮してゆく疾患で、知的機能や生理的機能が著しく低下します。はじめは、健忘症状、見当識障害、徘徊などがあらわれ、高度の知的障害、失語、失行、失認、幻覚、妄想などを経て、寝たきりとなり、失禁、拒食・過食、けいれんなどをおこし言葉も失われます。一方、脳血管性の認知症は,脳梗塞や脳出血が原因で麻痺など神経性の症状が伴います。したがって、脳血管性認知症の予防は、直接の原因となる脳梗塞や脳出血の予防と共通します。
アルツハイマー病は、1906年にドイツのAlzheimer医師によって報告されて、すでに100年を経ていますが、根本的な治療法は確立していません。発症する機構についてはほぼ解明されており、脳実質にアミロイドβ-ペプチド(Aβ)が蓄積(老人斑)することがきっかけとなり、さらにタウタンパク質が神経細胞に蓄積(神経原線維変化)し、神経が機能不全をおこし細胞死にいたるために認知能力が低下したり、精神症状が現れたりすると考えられています。しかし、Aβの蓄積、また連鎖して起きるタウタンパク質の蓄積の理由といったアルツハイマー病発症の要因として、確定したものはありません。動脈硬化とそれに関連する因子(コレステロール代謝など)との相関が示唆されており、またメタボリックシンドロームとの相関も示唆されています。脳は酸素とブドウ糖を大量に消費する器官ですが、カタラーゼ活性が低いなど酸化の防御機構が弱いこと、鉄イオンとアスコルビン酸の濃度が高く、この組み合わせがプロオキシダントとして酸化作用を持つのではないかと考えられています。また、アルツハイマー病は、銅、鉄、亜鉛といった金属が関与する活性酸素の発生とも関連があると考えられています。
以上のように、脳内における酸化的ストレスとアルツハイマー病は関連があるといえます。アルツハイマー病の患者の血液中の抗酸化成分が正常なヒトに較べ低いという報告があります。果物にも含まれる抗酸化成分とアルツハイマー病予防との関係を調べた研究があります。アメリカで行われた調査では、食事からのビタミンEの摂取は、アルツハイマー病のリスクを下げると報告されています。また、ビタミンEを多く摂取すると老人の記憶力減退を軽減することや、認識力が高まることが報告されています。しかしながら、抗酸化成分(β-カロテン、フラボノイド、ビタミンC、ビタミンE)摂取は老年時の認知症予防には効果がないという報告や,、オランダで行われた疫学調査でビタミンAとEの摂取とアルツハイマー病のリスク低減とは関係が認められないという報告も出ています。血液中のホモシステインはアルツハイマー病の発症の危険因子で、アルツハイマー病の予防には葉酸の摂取が重要であると報告されています。アメリカでの疫学研究の結果では、葉酸の摂取量が高いほど、アルツハイマー病のリスクが低いという報告があります。またビタミンB群(特にB9、B12)は、認知症の予防に有効だとも言われています。現状では、アルツハイマー病の発症が抗酸化成分やビタミン類の摂取で予防できるかどうかは明確な結論は出ていません。サプリメントで認知症を予防することについては不確かさがあります。だからこそ食生活が重要であるということがいえるでしょう。最後に疫学研究を2例紹介します。フランスで行われたコホート研究では、果物・野菜、魚、n-3系(リノレン酸、イコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸など)油脂の摂取は、認知症、アルツハイマー病のリスクを下げる可能性が示されています。アメリカでの疫学研究では、地中海地域の食生活を実践する人は、アルツハイマー病の発症とそれによる死亡率が低いことが示唆されています。
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