i. 肝臓病
肝臓は「沈黙の臓器」と言われ、病気の発現が遅いことやウィルス性肝炎に感染しても本人が気づかないでいるために近年では増加傾向にあります。胃や腸で消化された栄養分は吸収されて肝臓へ送られますが、肝臓はこれらを分解・合成・貯蔵することで体がいつでも利用しやすいように常に供給するという大変重要な役割を担っている臓器であり、またその一方で脂肪の消化吸収に欠かせない胆汁の生成・アルコールや薬の代謝・解毒をおこなうなどの化学工場としての働きをしています。肝臓病の主な原因には、ウィルス・アルコール・薬物等がありますが、放っておくと脂肪肝から急性肝炎、慢性肝炎へと移行し、やがて肝硬変・肝臓ガンへと進行します。
一方、近年の臨床研究から、肝臓病の発症に酸化ストレスが関わっているのではないかとする多くの知見が得られています。これらの研究では、肝臓病患者の血清中抗酸化物質の量や酸化ストレスに対する防御機構を測定することで、これらのマーカーが健常者よりも低下していたとする、ケーススタディですが、特に果物・野菜に多く含まれているビタミンC・ビタミンE・カロテノイド等の血中レベルの低いことが明らかになっており、これらの研究結果から果物・野菜を日頃から豊富に摂取することが正常な肝機能維持のために有効ではないかと考えられています 。
一方、疫学研究でも果物・野菜に多く含まれるビタミン・カロテノイドと肝機能との関連について、近年多く報告されるようになっています。米国人13605名を対象に行われた調査では、肝機能の指標である血中のアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)値と血清抗酸化物質との関連を解析し、特にβ-カロテンやα-カロテン、β-クリプトキサンチンの血清レベルが高いほどALT値の低いことが報告されています 。このことからビタミン・カロテノイドが豊富な果物・野菜の摂取は肝臓の正常な機能を保つために重要と考えられます。
また、アルコール性肝障害の指標に広く用いられる血中のγグルタミルトランスアミナーゼ(γ-GTP)値についても果物の摂取量や血清カロテノイド値と有意な負の相関があるとする研究結果が近年相次いで報告されました 。血中γ-GTP値は初期の酸化ストレスを反映し、この値が高いと糖尿病や循環器系疾患のリスクが高いことがこれらの研究により明らかになりつつあります。一方、血中γ-GTP値と飲酒量、また血清カロテノイドレベルとの関連を詳細に解析した結果が日本の研究グループから最近報告されました 。この研究では266名の男性を一日当たりのアルコール摂取量でグループ分けし、飲酒量ごとに血清カロテノイドレベルとγ-GTP値との関連を解析しています。その結果、飲酒量が多いほど血清γ-GTP値は高くなっていましたが、毎日25グラム(ビール大瓶一本相当)以上のエタノールを摂取していても血清β-クリプトキサンチンが高いグループでは非飲酒者と変わらないレベルまで血清γ-GTP値が低かったと報告しています。この研究から、β-クリプトキサンチンを豊富に含むウンシュウミカンを多く摂取することがアルコール性肝機能障害の予防に有効である可能性が考えられます。また、糖尿病のような慢性的な高血糖状態においては、血液中のブドウ糖が自動酸化を受けることで酸化ストレスが増大し、その結果、肝細胞に障害を与えることが予想されます。近年、この高血糖誘発性の肝機能障害と血清カロテノイドレベルとの関係について、日本人を対象にした調査結果が報告されました 。この研究では857名の男女を空腹時血糖値から110mg/dL未満の正常群、また110mg/dL以上の高血糖群にグループ分けし、慢性的な高血糖状態で誘発される酸化ストレスが原因と考えられる肝機能障害と血清カロテノイドレベルとの関連を解析しています。その結果、高血糖者では正常者に比べて肝疾患の指標となる血中ALT値が高いのですが、高血糖者でも血清β-クリプトキサンチンレベルが高いグループでは、正常者と変わらないレベルまでALT値が低かったと報告しています。このことから糖尿病が原因と考えられる肝機能障害に対してβ-クリプトキサンチンが豊富なウンシュウミカンが有効ではないかと考えられます。
これら一連の研究結果から、ビタミンやカロテノイドの豊富な果物を毎日摂取することが肝臓での酸化ストレス防御に有効に働き、肝疾患を予防できるのではないかと考えられます。 |